中学校・陸上部での出来事
あれはもう、30年ほど前のことです。
中学校の卒業式の数日前、陸上部の顧問をしていた私のところに3年生の女子生徒が近寄ってきて、(お別れの挨拶に来てくれたのかな)
そう思って立ち止まった私に、
彼女はこう言いました。
「私は、先生に潰されました」
「えっ……。」
あまりの衝撃に、私は言葉を失い、その場に立ち尽くしました。
彼女はくるりと背を向け、そのまま去っていきました。

思い返してみると、彼女は私の指示に反抗的でした。全国大会を目指せる実力はあるのに、結果は県大会止まり。
(言うことを聞かないからだ。指示されたことをやらないからだ。反抗的な目をしているからだ……)
当時の私は、そう決めつけていました。
しかし冷静に考えると、彼女はそれまでの顧問のもとでは、しっかり努力し、結果も出していました。私が顧問に替わってから、うまくいかなくなったのです。
「もしかして、原因は私にあったのでは……」
そう思いながらも、答えを出せないまま数年が過ぎました。
ある年、生活の不摂生も重なり、私は結核を患い、2か月間学校を離れることになりました。
当時、生徒指導担当として
「三森のおかげで学年が落ち着いてきた」
と言われていたにもかかわらず、私の不在中に状況は一変しました。
「三森のせいで、こうなった……」
そんな声が耳に入ってきました。
投薬治療中、大学の同期が繰り返し私に言っていた言葉があります。
「お前、コップの中で溺れているぞ。外からコップをのぞいてみろ」
当初は意味が分からず、聞き流していました。
しかしあまりにもしつこく言われるので、半年後、彼に連れられて経営者が集まる異業種交流会に参加しました。
そこで知った社会情勢や世界の動き
学校という狭い世界に生きていた私にとって、それらは関心の外にあるものでした。
だからこそ、逆に強い衝撃を受けたのです。
(自分は、コップの中から社会を見ていた。これからは、社会の側からコップの中を見なければいけない)
まさに「目からウロコ」の体験でした。
その場で知り合った経営者の一人から、こんな言葉をかけられました。
「先生なら、子どもの個性に合わせた対応や、言葉を学ぶといいですよ」
その瞬間、あの女生徒の言葉がよみがえりました。
「私は、先生に潰されました」
あの子に、謝りたい。
心の奥から、そんな思いが湧き上がってきました。
不思議なことに、強く願うと、神様はチャンスをくれるものです。
その後、小学校へ転勤し、少年消防クラブの担当を任され、消防署へ打ち合わせに行ったときのことです。
なんと、対応してくれた消防署の職員があのときの女生徒だったのです。
私は思い切って、頭を下げました。
「中学校のときは、本当に申し訳なかった。
あなたに合った指導ではなく、自分の思い通りに動かそうとしていただけだった。」
すると彼女は、少し驚いた表情でこう言いました。
「えっ? 何のことですか。忘れました。」
言葉の暴力は、忘れられるものではありません。
それでも私は、彼女の「忘れました」という言葉を、(許してもらえたのだ)そう受け取りました。
その後、何度か打ち合わせを重ねる中で、彼女はさまざまな手配をしてくれたり、相談に乗ってくれたりしました。
その姿が、私の受け取り方が間違っていなかったことを教えてくれました。
彼女は今でも、
私の人生を変えてくれた大切な一人として、心に残っています。
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